
「シロクマのことだけは絶対に考えないでください」
今、頭の中にシロクマが浮かびませんでしたか?
嫌なことを忘れようとすればするほど、かえって頭から離れなくなる…
夜中に「早く寝なきゃ…」と考えれば考えるほど眠れなくなる。
別れた恋人のことは考えないと決めた日に限って、一日中その人の顔がちらつく。
誰しも一度はこうした経験をしたことがあるのではないでしょうか?
こちらの記事では「シロクマ実験」と呼ばれる研究を取り上げながら、なぜ人間の脳は「考えるな」という指示に逆らってしまうのか、そしてどうすればうまく付き合えるのかを一緒に考えていきましょう。
考えるなと言われるほど考えてしまう脳の仕組み
「シロクマのことを考えないで」
この実験を行ったのは、アメリカの心理学者ダニエル・ウェグナー(Daniel Wegner)で
1987年に発表された論文が元になっています
実験の内容はいたってシンプル。
参加者を3つのグループに分け、それぞれに異なる指示を出しました。
グループA:「シロクマのことを考えないでください」
グループB:「シロクマのことを考えてもいいし、考えなくてもいいです」
グループC:「シロクマのことを考えてください」
その後、全員に「シロクマが頭に浮かんだらベルを鳴らしてください」と伝えたところ、
皮肉なことに最も多くベルを鳴らしたのは「考えるな」と言われていたグループAでした。
しかも厄介なのは、その「考えるな」という制限時間が終わった後です。
今度は全員に「自由に考えていいですよ」と指示を出すと、グループAの人たちは、他のグループよりも圧倒的に多くシロクマのことを考えるようになってしまいました。 ダメだと言われて必死に抑え込んでいた反動が、一気に爆発してしまったような形です。
実は、この不思議な現象には名前がついています。
心理学者のダニエル・ウェグナーは、この実験結果をもとに「シロクマ理論(皮肉過程理論)」という考え方を提唱しました。
なんか難しそうな名前ですが、言っていることはいたってシンプルです。
何かを忘れようとすると、脳はそれを意識的に探してしまい、かえって頭に浮かびやすくなる。
要するに、「忘れようと努力すること自体が、思い出すきっかけになってしまっている」ということです。
たとえるなら、ホラー映画の怖いシーンで「見ちゃダメ!」と思いながらも、つい指の隙間から覗いてしまうようなものです。見ないように意識するほど、かえって気になってしまう…心当たりはありませんか?
日常のあちこちにも「シロクマ」は潜んでいる…
私たちの毎日は、小さなシロクマで溢れています。
ダイエット中の「食べちゃダメ!」
「今日から甘いものは我慢する!」と決めた瞬間から、
コンビニのスイーツコーナーが妙に目に入るようになった経験はありませんか?
思考抑制に関する研究では、「食べ物のことを考えないようにする」ほど、かえって食べ物への意識が強まり、結果的にドカ食いやリバウンドに繋がりやすくなることが分かっています。
ここは絶対ミスできない…
たとえば仕事で「ここは絶対ミスできない…」と意識すればするほど、そればかり気になってしまって
緊張のあまり普段なら起こさないミスをしてしまったことはないでしょうか?
この問題は絶対に落としちゃいけない
試験中に「この問題は絶対に落としちゃいけない」と意識したときほど、焦りが生まれ、
普段なら解けるはずの問題で手が止まってしまったりした経験はないでしょうか?
これらすべて同じ理屈です
脳は「これを考えるな」と指示されると、本当に考えていないかどうかを確かめるように、無意識のうちにその内容をチェックし始めます。
その結果、かえって考えないようにしていたことが頭に浮かびやすくなってしまう。
これが、思考を抑えようとすることで逆に意識されてしまう、いわゆる逆説的な現象です。
じゃあ、どうすればいいのか?
「考えるな」と言われるほど、かえって考えてしまうのであれば、無理に抑え込むのではなく、向き合い方そのものを変えてみましょう。
ここでは、そのための3つのシンプルな方法を紹介します。
① 抑え込まずに「受け入れる」
「考えないようにする」という行為がかえって逆効果になりやすいです。
そのため、浮かんできた考えやイメージは無理に消そうとせず、「あ、今○○のことを考えているな~」とそのまま受け入れてみましょう。
② 別のことを考えてみる
ウェグナー自身の後続研究でも効果が示されたのが、この方法。
「シロクマのことを考えるな」ではなく、「赤い車のことを考えて」と別の対象を指定すると、
シロクマの出現頻度が下がったのです。
これを日常生活に応用するなら、「好きな曲のサビを頭の中で再生する」、「週末の予定を具体的にイメージする」、といったシンプルなものでも構いません。
ポイントは、「考えるな」と抑えるのではなく、別のことを考えて意図的に意識を逸らすことです。
③ 紙に書き出してみる
心理学でエクスプレッシブ・ライティング(筆記開示)と呼ばれる手法で、1980年代に心理学者ジェームズ・ペネベーカーが提唱しました。
やり方は単純で、1日15~20分、気になっていることや頭に浮かんでいることをそのまま紙に書き出すだけです。
うまくまとめる必要はありません。
実際の研究でも、感情的な出来事について書き出すことを続けた人に、ストレスの軽減や心理的な健康指標の改善が見られたと報告されています。
「考えないようにする」のではなく、「外に出して整理する」ということは、
シロクマ理論への対策としても役立つ方法です。
まとめ
シロクマ理論(皮肉過程理論)のポイントは、「考えないようにするほど、かえってそのことを意識してしまう」
という点にあります。
無理に抑え込むのではなく、そのまま受け入れる。あるいは別のことに意識を向けたりする。
嫌なことを完全に忘れる方法はありませんが、「忘れなきゃいけない」というプレッシャーを手放すだけでも、
心が少し楽になるかもしれませんよ?
シロクマ理論についてもっと詳しく知りたい方へ
より詳しく理解したい場合は、植木 理恵著『シロクマのことだけは考えるな!―人生が急にオモシロくなる心理術』も参考になります。
皮肉過程理論そのものを扱った代表的な一冊です。ぜひ手に取ってみてくださいね。
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